Another cup of coffee

おかわり

蜘蛛の糸

 目覚めると今日も、薄灰色の空には蜘蛛の巣が架かっている。物心ついてから今まで途切れることは無い。たまたま同じ音を冠した雲と同じく、私達にとっては馴染みの深いものとなった。何か悪さをするわけではない。時折目測を見誤った小型飛行機が厚い蜘蛛の巣に突っ込み、立ち往生を起こすことはある。ただ、そいつはもはやヒューマンエラーの部類に属し、蜘蛛の巣に非難を加える者はいまどき珍しい。

 人間がこいつと付き合いを始めてから相当な時が流れた。古文書を紐解けば、当時の人々の新鮮な反応を見ることができる。現在の中国の地で生まれた文明は、複雑に入り乱れた蜘蛛の巣のパターンに漢字の原形を見出した。漢字の輸出先である東アジアの各国でも、遅かれ早かれ、こいつから民族文字を作り上げた。アジア圏に限らず、欧州で、中央アジアで、南米で、同じ現象が見られた。文明が成熟した今でも、蜘蛛の巣のパターンから文字を作り出そうとする好事家は世界で後を絶たない。今も昔も、時折差し込む陽の光に目を焼きながら、人たちが空を見上げて何かを見出そうとしているのだと考えると少し笑える。